<2023日本選手権> 大会レポート
2023年の初戦は日本選手権。和歌山の紀ノ川にて行われました。
久しぶりの大会!しかも初戦で日本選手権ということでかなり気合も入っていました。
しかし今回の大会は一言でいうと残念ながら「トラブルとその対処」がテーマになってしまった(?)大会でした。総合成績は悔いが残る25位。ただ大失敗をした中では思ったよりは成績が良かったとも言えますし、今回の失敗は糧になるものと思います。来月のJ1足尾のパフォーマンスに繋げたいと思っています。
今回はトラブルに対してどういう心持ちで対処していったかを詳しく書いて行こうと思います。
日本選手権@紀の川は今年の初戦であり、3ヶ月ぶりのレース。しかも自分にとっては初めて飛ぶエリア。慣れないエリアということもあって大会前日から入り、練習をすることに。
アクシデントはテイクオフの立ち上げにで。荒れた風の中でなかなかうまく翼を立ち上げらず、風に翻弄される。斜めに浮かされそうになったところを、「させまい!」と踏ん張った時。。。ピキーーン!! 左太ももに痛みが走りました。最初はフライトコンテナが激しく足にぶつかったのかと思ったけれど、針をさすような痛み方。すぐに筋肉性の痛みだと感じました。一旦、落ち着こうと翼を下ろします。
荒れたコンディションでスクールとしてはエリアクローズです。なのでインストラクターも地元のスクール生もテイクオフにはいません。テイクに上がったのは飛ぼうとした自分を含めた選手4人だけでした。しかも自分が風に翻弄されている間に他の選手はみんなテイクオフした後です。
テイクオフでたった1人。不安を感じ、頭によぎったのは「やめるべきか?」という考え。
こういう時に大切なのは何が不安なのか分析をすることです。
~怪我の状況の把握~
太ももは常に痛いわけではなく、足を曲げた状態で踏ん張ったり、力を入れりすると痛む。足がまっすぐの状態では痛くない。どうやら症状からして肉離れ。原因はどう考えても運動不足ですね。苦笑 ちゃんとストレッチするべきだった。
体の使い方を工夫すれば、ある程度は動けそうです。つまり大会には何とか出られそうなレベルの症状です。
~現状のテイクオフの把握~
風は荒れているが、平均値は強すぎるわけではない。ふっ飛ばされるほどの風速がでることはあまりない。飛ばされたとしても風下のスペースが広いので対処するマージンはあります。ですが、テイクオフに一人なので、何かあった時に助けてくれる人はいない。助けは無線で呼ぶことができるが、その場合は時間がかかる。つまり何かあった場合はリスクが高いです。しかし、風を選んで気をつければリスクは少なそうです。ただ、1人なので翼を綺麗に広げるにも限界があります。翼が変な形で立ち上がらないよう対処が必要です。
幸い、足の痛み的にはテイクオフすることは何とかできそうです。リスクもないわけではありませんが、対処しきれる範囲と思いました。そして何よりこの足が痛い状況で大会に出るしかないことは現時点で確定しています。
~ここで思ったこと~
「これから海外の大会とかガンガン出ていこうと思ってるんだよ。海外の大会なんて、どう考えてもトラブルだらけのはず。ここでそういった対処の練習もかねるべきでしょ!トラブルのなかでも如何にパフォーマンスを維持するかも選手として大切な能力!これしきで負けてられるかーー!!」
ってことで飛ぶのは確定。テーマは「この足の痛い状態でのテイクオフするための体の使い方を見つけて、大会での影響を最小限にする」というものでした。
どうすれば左足に負担をかけずに翼を立ち上げてテイクオフできるかを考えながら風をみます。幸い後ろに歩く分には痛みがあまりありません。ただ横にステップするのが厳しい。なので翼が立ち上がった直後からブレークコードで翼が水平に上がるようにコントロールするのを心がけます。また、キャノピーもなるべく綺麗に広げます。最初はうまく行かず、翼に引っ張られて、踏ん張ってしまうこともあり、痛みが走ることもありました。しかし工夫をして十数回目のトライで何とかテイクオフ。ここで何とかテイクオフできたのは大会には何とか出られるという点では自信に繋がりました。
パラグライダーというのは常にリスクと隣合わせ。大切なのはリスクをしっかりと分析、把握して天秤にかけることです。リスクがゼロになることはないので、リスクが大きすぎると判断すればやめるし、リスクが低く時はそのリスクを背負い、腹をくくって行動すると判断することです。
飛んでみて判明したもう一つの問題。それは痛くて左足ではアクセルを踏めたいという問題。これはもう右足をうまく使うしかありません。
そんな中始まった日本選手権大会。
こちらは階段を片足ずつしか上り下りできないなど、笑えるハンデが色々ありましたが、ある意味自分にとってラッキーだったのは1日目、2日目は悪天候でキャンセルになったこと。
お陰で多少痛みが引きました。
3日目が晴天となり40.9kmのタスク
テイクオフは荒れたコンディションとなり、長い待機がありましたが幸いタスクはやることに。自分は早めにテイクオフして上空待機中に如何に右足だけでアクセルをコントロールするかの研究をします。1段踏んでライザーを握ってアクセルをホールド→2段目を踏むなんて方法も実験しましたが、うまく行かず。あれこれ試して結果的に選んだのは、「左足は伸ばした状態なら耐えられる範囲の痛みだったので、一段目を右足で踏む→左足に踏み変える→2段目orフルアクセルを右足で踏む」という対処法。これならフルアクセル踏むまでにもあまり時間かからないし、パフォーマンスにはあまり影響なさそうでした。左足で踏み変える時にある程度の痛みが走るのと、右足がめっちゃ疲れる点はもはや気合で何とかするしかありません。そう。気合です。気合い。
そんなこんなで体制は整っていざレーススタート!!自分はそこそこいい位置でスタートをきれました。まずはスタートシリンダーに入り次第、ターン!そして第2TP(ターンポイント)へ。 ここで新たなトラブル発生です。第2TPに入っているにもかかわらず、アプリの音がなりません。何かがおかしい。
ここで気づきました。やっちまったと。
アプリをよく見るとスタートがきれていませんでした。。。。
ですが、スタートのことを思い出すと、周りの機体がターンした位置を比べてもせいぜい十数mくらいしか違いがないはずなので、自分のアプリがスタート認識していないだけで、大会用のライブトラックはスタートを切れている可能性も結構高い気がします。
選択肢は2つ
1)スタートを切り直すか、
2)スタートできていると信じてこのままレースを続けるか。
どうするべきか考えているうちにサーマルにヒット。まったり回しながらスマホ用のペンを手にとります。空中でJHF競技委員会のHPからライブトラックのランキングを確認すればスタートできているか見れるかもと頑張ってHPを見てみますが、タイムラグのせいで正確なことがわかりません。空中衝突しないよう気をつけながらそんな詳細なログまでみている余裕なんてありません。
スタート切れているかもしれないけれど、微妙な所。ちなみに天気予報的にも翌日も飛べるので、タスクは今日だけではありません。
少しでも確実に順位を上げるためにスタートを切り直すことにしました。
しかしこのスタート切り直しがかなりの痛手となり、大きな遅れをとってしまうことに。ほとんど一人旅か一緒に飛ぶ人がいても1人か2人。なので効率が悪くタスクの2/3進んだところでサーマルがなくなりランディング。悔しい結果となってしまいました。
(後日正式なログを確認しましたが、スタートは数m差できれていませんでした。なのであの時戻る判断をしたのは正解でした。)
しかし重要なのは、「なぜこのような基礎的なミスをしてしまったのか」という点です。細かい技術的な話になるので詳細は省きますが、ざっくり言うとアプリが更新されていてスタート時の通知音の仕様が若干変わっていたことを把握していなかったこともありますが、スタートがちゃんと切れたかを確認できるような画面を設定していなかったのが原因です。また、最短距離で行こうとしすぎていた点もミスの原因です。
ミスした過去は変えられない。次に繋げるしかない。
その日の内にアプリの画面をカスタムして、「スタート前専用ページ」を作り翌日のレースに備えます。
4日目、第2タスク
まだ足は痛みますが、パフォーマンスに影響が殆どないことはわかっています。昨日のミスの対策もした。後はやるだけです。
順位が大きく下がったので今回は最初にテイクオフ。長い上空待機があります。最近自分が苦手意識があり、テーマにしている「旋回半径の大きいガーグルの中でどう上げていくか」を自分なりに研究していきます。
そのことを意識しすぎたのかスタート直前で低くなってしまい、あまりいい位置でスタートが切れませんでした。こういうときこそキープハイゴーファーストを意識して飛んでいきます。自分と同じ位置を飛ぶトップ選手もいて、一緒にレースのコマを進めていきます。途中風が強くなったときにうまく風に乗れた自分は一気に進めるタイミングなどもあり、効率よく進む場面も。終盤は曇ってしまい、サーマルが弱くなるなか、キープハイで高度をなるべく維持しながらジリジリとゴールへ近づいていく展開。ゴール数Km手前で半島の用意突き出た小山のところへ。小山の山頂+200mくらいの位置取り付くと、何名かの他の選手と合流。しかし、他の選手は小山にへばりつき何とか高度をあげようとしていますが、サーマルは殆どない様子。
この時自分のバリオは+100mくらい高度を残してゴールに到達できると表示されています。しかも風はフォロー強風。どう考えても滑空比は伸びる。強いシンクにはまらなければゴールできるチャンスは十分ある。勝機はある。
「行くしかない。」
腹をくくってグライダーをゴール方向に向けます。最も効率が良くなるように10%だけアクセルを踏みます。なるべく体を寝かせて空気抵抗を少しでも減らします。そしてなるべく揺らさないように優しく、丁寧に操作します。
しかしファイナルグライドに入って数秒で自分の思いは打ち砕かかれました。強いシンク帯。 ー3m~-5mでどんどん高度が失われていきます。 自分の予定では滑空比15とかを見る予定でしたが、滑空比平均4って表示が出ています。
「うん。無理。」素直に受け止めしまうほど、延々続くシンク。
幸い、河川敷に沿って飛ぶコースだったので下ろす場所には困りませんでした。広い駐車場に下ろしました。自分の2度目の日本選手権が終わった瞬間です。あとほんのちょっとだったのに。。。手前で降ってしまいました。悔しい。
帰りのバスで他のゴールした選手やゴール手前で降ってしまった人に意見を聞きましたが、「同じ状況であれば自分もファイナルを切っていた」全員が答えてくださいました。
後でログを見返すとほぼ同じタイミングでゴールに直進(河川敷コース)ではなく山脈を経由して飛んでいた人はゴールできていました。しかしその十数分後には今度は山脈ルートの人が途中で降ってしまい、河川敷ルートの人はゴールできている時間帯もあります。
あの時は何もヒントがなく、シンク帯を予測するすべはなかったです。そして行けたか行けないかは本当にタイミング次第だったようです。
ゴールはできませんでしたが、判断が間違っていたわけではありませんでした。
そういった意味ではタスク2では自分でもよく頑張ったと思える飛びをした部分もありますし、最後結果がついてこなかっただけでとてもよい内容のフライトだったと思います。
結果的には25位と残念な結果になってしまいましたが、トラブルと向き合いながらうまく対処し、如何にその中でパフォーマンスを出せるかもがいた経験はとても財産になるのではと思います。
またあれだけのスタート大失敗をしていながら最終的には25位まで順位をあげられたのは考えようによってはすごくよかったのかもしれません。
感情としてはとても悔しいですが、次に繋がる大会だったと思います。
話が変わりますが、元プロ野球投手の桑田真澄さんが昔テレビで言っていた言葉で心に残っているものがあります。
「野球と通してどれだけ人生の学びを得られるか」的なことを言っていた記憶があります。
とても深い、いい言葉だと思います。
自分に置き換えれば「パラグライダーを通してどれだけ人生の学びを得られるか」ということになります。(写真に関してもそうだと思っていまます。)
パラグライダーはじめて11年。学んだことは沢山ありますが今回の大会では
「トラブルとどう向き合うか」
「リスクとどう向き合うか」
の2点が重要な要素となりました。
特にパラグライダーにとってトラブルはすぐリスクに繋がることもあります。
何かあっても動じることなく冷静に対処する。ベストを尽くすにはどう有るべきかを考える。
今回はこのことをとても勉強できたと思います。
またこの経験はパラだけでなく、仕事や私生活でも大いに役立つことでしょう。
こういう学びもあるからパラグライダーはやめられない!
さて、次の大会は4月15、16日のJ1足尾です。
ホールエリアでの戦いです。堅実な飛びで上位を狙っていきたいです。
飛び人生は続く。